2009年9月10日木曜日

人蕩らし


おはようございます。大阪弁は語彙が豊富ですね。田辺聖子さんの「楽老抄」より

人蕩らし:大阪で古いシャレ言葉に<乞食のシラミ>というのがある。そのこころは<口で殺す>というのだそうです。
うまいこというて、人を丸めてしまう、という意味を含むが、司馬遼太郎さんの<人蕩たらし>は、そんな軽薄なものではない。心にもないことは決していわれない方だった。人がとろっと蕩らされてしまうのは、自分がひそかに自負している点を指摘されるからである。(わかってもらえた)といううれしさに思わずとろけてしまう。
実をいうと司馬さんにたびたび、蕩らされた。<お。綺麗な服やな>・・・小説をほめられたのではなく、恥ずかしいが、うれしいのは一緒だった。
司馬さんのお髪はかなり若いときから白かった。私はあるとき、<髪はやっぱり、卵の白身かなんかで洗いはるんですか>ときいた。司馬サンは一瞬かんがえこまれたが、かたちをあらためた風情で、あんたなあ、・・・・ぼくはあんたのこと、かしこい子や思うてた、昔からなあ>    <あ、ハイ>
こういう言葉を聞くのは嬉しい。まして司馬サンにいわれると。私はニコニコする。
<そやのに、なンでそんな阿部保なこと、きくねん>ー司馬さんが亡くなられて私はいうまでも悲しいが、このときのことを思い出すと、ふと取りはずした微笑が唇をのぼってくる。死後も笑わせる、ということほど、すてきな人柄があろうか。
私の医者をしていた夫のことをほめて仙骨①とか、国手②とかほめすぎなことをいうこともあった。
夫カモカのおっちゃんなあ、あんた、そんな顔ぶらさげて会津にいったら、どやされるで。<戌辰戦争の怨みは深いとってな>   <現在でもですか?>   <いまでもや>
後に友人たちと会津へ旅行したとき、私たちは迷路のような城内の道を楽しんでいたが、夫は早々に切り上げてバスへ戻ってしまった
<司馬さんがどやされるデ、いいはった>とかたく信じ込んでいるのであった。
① 仙骨:世俗を超越した骨相。非凡な風采。
② 国手(こくしゅ):名医のこと

0 件のコメント: