2009年2月11日水曜日
ある老人ホームでの出来事
私立の学校では試験のようで、校門の前で担当が大勢で出迎えています。もう夕方には発表が掲示されています。号外なみの早さです。
身体が弱い作者の安宅さんは全国から自分の予算に合う所を探し出し、3つ目にだ会った讃岐の老人ホームでの出来事でした、。
ある日土井さんの顔に大きな青あざができています。どうしたのだろうとみんなが思わずにはいられないほど目立っています。パーキンソン病だということを知りました。
この病気は足がもつれたり、身体が不随意に動いてしまったりという症状がでます。
それから間もなく土井さんにおかしな行動が目立ってきました。ふらつく足で大きな荷物をもって玄関に現れたので、へんだなと思いながらも、
「どちらにお出掛け?」「高知までいかなならんの」、彼女の子どもさんは東京と名古屋方面にいるときいていましたが、彼女は高知に行くと決めています。
なんだか様子がおかしいので、職員が部屋につれて帰りました。そのうちに土井さんは、他の人の部屋に入ってそこで寝込んでしまったり、意味不明のことを言うようになりました。かなりひどい痴呆の症状ににています。土井さんは自分のやっていることのおかしな行動のつじつまを合わせようとします。その様子がなおさら痛々しく感じられます。皆も土井さんのことをボケたと噂しています。彼女の性格から考えるとその噂を気にしてより症状がひどくなることが目にみえています。
そこでケアハウスの所長はこれ以上皆の目にさらすのはしのびないと考え、併設の特養に彼女を移しました。診察した精神科の医師の診断ではパーキンソン病による症状を他人に見せまいとする緊張感が彼女を追いつめたのだという。
私はこの処置がどのような結果を生むか心配しながら、毎朝食事の介助にいくいたび声かけをしていました。特養の痴呆の人たちのなかには外見るとびっくりするような人もいます。廊下を這っている人、一日中泣き続けている人、寝たきりで一日中天井を向いてボーツとしている人、何か訴えたくても言葉がでないので「あー、あー」と声だしている人様々光景がある。
ある朝土井さんが隣のベッド・元女医で気難しい人の食事の世話をしているではありませんか。ケアハウス時代には他人の世話もならないし、他人の世話もしない。そいう生活態度を貫いていた。このあり様は土井さんの心のなかに何か大きな変化が現れだしたことに気がつきました。
しばらくすると、土井さんの症状はパーキンソン病によるわずかな足ももつれをのこすだけになりました。意識障害はすっかり治っていました。
所長が「土井さんが買い物にいきたいというから付き合ってあげてくれない?」というので、もう一人のケアハウスの友人と3人で買い物に出かけました。土井さんはきれいにお化粧して、一番おしゃれで誰が付添かわかりませんでした。
「あっちよ、こっちよ」と彼女が先に進みます。帰りには彼女のいきつけのコーヒーショップで「コーヒーおごるわね」と御馳走になりました。このころから土井さんは、今まで見せたこともない私たちに素直に甘える一面も見せてくれるようになりました。
他人にものを頼むなどということはしなかった人です。ああ彼女の心は自由になってきたにだなと思うと私は胸が詰まるほど嬉しくなってきました。土井さんは特に精神科の治療を受けたわけでもない。彼女をいやしたのは息子さんの気持ちとそして特養でみた悲惨な人たちのなかの静かな優しい心だったのではないかと。悲惨な姿を見ることによって、自分のありのままを見せることが出来る心が育っきたのではないでしょうか。こうしてできた素直な心が高井さんの介助をすることで、自分もまた必要とされているという充足感がもてたのではないかと。特養の痴呆のお年寄りたちが一人の心病む人をいやすことが出来たのです。この特養の経験が」これからの土井さんの精神を強くしてくれるでしょうと。住んでみた老人ホーム:安宅温著:ミネルヴァ書房より
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