2010年1月17日日曜日

向田邦子さんのこと



おはようございます。向田邦子さんの作品は周知されていますが、作家個人の人柄についてもより知りたいと思っていましたが、下記の本はそれがよく分かりました。
雑誌記者・向田邦子:上野たま子
入社の日に総務部長が「こちらは、向田邦子さんです。『映画ストーリー』に入られます」と紹介された。邦子さんは深々と頭をさげ丁寧に頭を下げ丁寧に礼をした。耳の下で切り揃えた漆黒の髪が頭を上下するとき、ハラリと揺れて女
らしかった。
高木編集長がいたずらっぽくユーモラスに邦子さんに
「こんな忙しい会社によくきたね」
邦子さんは一瞬戸惑ったが、すかさず答えた。
「歩くより走る方が好きですから」
「じゃ走っこしようか」
「小学校のとき短距離の選手でした」
邦子さんは走るポーズをとって見せた。さきほど挨拶のときみせたしとやかさとは打って変わった活発さに周囲の編集部員たちの間には、一瞬しらけた時が支配した。慶応大学ラグビー部出身の編集部長は煙草に火をつけながら磊落に大
声で笑った。その高木さんの笑いがなかったら、周囲はしんと静まりかえったかもしれない。入社の日いきなり編集長に対して、これほど意表をついた対応をする邦子さんを周囲は茫然と見つめたといっていい。邦子さんはその反応を素
早く感じ取って、高木さんの鷹揚な笑い声にあわせるかのように、甲高い声でさも嬉しそうに笑うのだった。高木さんはもう一度笑い、周囲もどっと笑った

0 件のコメント: