2009年1月20日火曜日

病院長



おはようございます。時代は違いますが、国立の病院長でこんな人がいたという記録です。あの島村さんの日記です。
「どうも、うっかりしていました」と庶務課長が入ってきていうには患者食費に30万円赤字を出したので厚生省に申請したという。課長は謝ったが、私は、治療費がや食費や研究費に赤字を出す庶務課長はりっぱだと思う。一日76円ばかりの食費で、結核患者の栄養を保とうというのが、無理なのだ。無理は患者の自炊となって現れるか、食費の赤字となってあらわれざるをえないだろう。ただ、遺憾なことは両方になってあらわれたことである。しかし30万円といったって、4月以来10ケ月間の赤字である。1ケ月200万円を超える食費予算に対してたったの3万円の赤字である。
「30万円はまずかったね」と私は庶務課長にいったが、腹の底では最も立派な赤字の出し方だと考えていた。
それでもなにやかやとののしられている私たち。そうしたなかでも珍しく、今年の正月には、9百人の患者たちが、配給のもち米を、自発的に供出しあって、病院へ感謝の大鏡を作ってくれた。30万円赤字のおわびの百万べんの叩頭は、よろこんで、私が厚生省で演じて来よう。

      院長日記:島村喜久治:筑摩書房より

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