2007年12月17日月曜日

河合隼雄のラストインタビュー前篇その2


写真はゆんフリー


ちゃんと悩んだり、迷ったりしないのが問題です。
 「子育て、このままにならないのが面白いや、練習や」という気になったらだいぶ違うでしょうね。
人生に悩みや迷いがあるのが問題なのではなくて、問題があるのに、ちゃんと悩んだり迷ったりしないことが問題なんですね。そういう悩みや迷いを持ちこたえる力をぼくは「葛藤保持力」といっているんです。それが今すごく弱くなっていると思いますね。腹がへっても、お母さんに「ちょっと待ってて」といわれたら待っとるよりしょうがないかわけでしょう。スナック菓子があるわけじゃないからね。待っていたらおいしいものを食べさせてもらえる。葛藤保持力の練習でしょう。待っていたらいいことがあることをちょっとづつ練習する訳です。ちょっとしたものがほしければ「こんどの誕生日まで」とかやってるわけでしょう。
辛抱の経験の足りない子は物事を思うようにならないと、それを我慢できない自分が悪いのではなくて、だれかが悪いからだと考える。だから誰か悪いやつを探すわけです。お父さんが悪い、お母さんが悪い、やっつけろと短絡的にいくわけです。
どこかに入るときに、自分で戸を開けて入るか自動で入るかで、だいぶ違うと思いますね。ドアがなにもしないで開くようになっている。そのことに今,平気になっている。だから平気で他人の心のなかにズカズカ入り込んできたり、そういうことが起こってくるのは当たり前でしょう。
スーパーやコンビニで「おはよう」もいわず、レジにポンと渡して、金はらってパパットと。何も言わんでも、生きられるんです。今は便利になりすぎているんです。世の中便利になったから、みんながちゃんとやったら自分の思い通りにうまく行くのが当然と思いだした。ところがそれは物に対してはそうじゃないんですよね。それを間違って、自分の子供でも、ちゃんと育児すれば泣かない子ができる、とみんな思うわけですよ。そんなん、絶対子供は泣くわけ、そうすると、これはわたしが悪いんじゃないか、という自責の念がわいてくる。でも自分が悪くないでしょ。それでなんかむかむかしてきて「なんやこいつ」と子供をパンとたたいてしまう。子供はわっと泣くでしょう。それでお母さんはそれこそキレてしまうんです。そうなってらもうムチャクチャになるんです。だから子供を憎んでいるとかそんなにないのに、虐待してしまうんです。そして虐待した辛さを子供にまた向けるんです。はじめから嫌いでやっているのとは違うんですよ。その根本で「ちゃんと上手にやったらうまくいく」と思いすぎているんです。そういう虐待が増えているんです。

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